現在開催中の「尾ア卓爾ー中岡慎太郎を語り継いだ人物ー」。
本ブログで、主な展示史料を紹介しながら展示内容を解説します。
第1回目は『中岡慎太郎』初版本です。
この本は北川村出身の新聞記者尾ア卓爾が1926年(大正15)11月26日に発行した、日本で最初の中岡慎太郎の伝記です。
印刷所の陽明社は卓爾の兄旦(たん)が創業しました。
著者の卓爾は中表紙に「謹で御父上様に呈し候」と揮毫して父旦爾(たんじ)に送りました。
令和7年10月に卓爾の大甥尾ア雅洋氏より当館に寄贈されました。
ちなみに年号で数えると、出版された年(1926年)の12月26日から「昭和」になりましたので、今年が昭和だったら「100年目」になります。
『中岡慎太郎』(初版本)中表紙
卓爾が中岡慎太郎の伝記を書いた動機は、中岡慎太郎は北川村出身で、明治維新に活躍した立派な英雄であると父が子どもたちにたびたび語っていたこと、その北川村に慎太郎をたたえる石碑すらないのはどういうことだ、と父がぼやいていたことです。
ちなみに慎太郎の故郷北川村柏木に石碑が建立されたのは1928年(昭和3)。除幕式は1930年(昭和5)です。
卓爾が慎太郎の伝記を執筆していることを知った田中光顕(高知県佐川町出身。元陸援隊士)は、積極的に資料提供及び助言をしたといいます。
初版の『中岡慎太郎』は〈北川村出身の英雄〉中岡慎太郎として、慎太郎が薩長盟約、薩土盟約、陸援隊結成など倒幕運動に奔走したことを物語風の文体で叙述しています。
そして、1927年(昭和2)に坂本中岡両先生銅像建設会が発足し、京都円山公園に龍馬・慎太郎銅像を建立しようという機運が高まった翌年に増補改訂版『中岡慎太郎先生』として再版されました。
増補改訂版は幕末政治の解説が加わり、幕末史全体の中で中岡慎太郎の活躍と功績を紹介する〈維新の英傑〉中岡慎太郎と記述が変化します。
初版本には、島村塾に通う慎太郎に旦爾が牛のふんを塗りつけた縄でこかそうとしたこと、慎太郎が大庄屋見習いの頃に植林を村人に勧めた痕跡が中岡慎太郎館の近くにある通学路だった「向学の道」にあるなど、この本でしか知ることができないエピソードが載っています。
また、慎太郎の手紙を引用、解説しながら倒幕運動に奔走した様子を紹介するとともに、慎太郎の日記「海西雑記」、「行々筆記」1、2の三冊の掲載しているため、慎太郎のことを調べる手引書としても貴重です。
慎太郎にいたずらをしながらも慎太郎に畏敬の念を抱いていた尾ア旦爾。
旦爾が語る〈英雄〉中岡慎太郎の話を聞いて育った三男の旦が印刷所を創業。
四男の卓爾が中岡慎太郎の伝記を執筆し兄の会社から出版。
この尾アファミリーの行動が、中岡慎太郎を後世に語り継ぐ大きな力になったといえます。
尾崎 旦爾(おざき たんじ)
慎太郎にいたずらをしながらも畏敬の念を抱く
尾崎 旦(おざき たん)
内務省勤務。のちに陽明社創業
尾崎 卓爾(おざき たくじ)
『中岡慎太郎』著者


